腎がん
腎がんとは
疫学
腎がん(腎細胞がん、腎臓がんとも呼ばれます)は、腎臓にできる悪性腫瘍です。腎臓は尿を作る臓器で、左右の腰部に2つ存在します。腎がんは、腎臓の尿細管(尿をつくる非常に微細な管)細胞から発生します。尿細管のなかでも発生部位により、いろいろな種類の腎がんが発生します。
腎がんは、全悪性腫瘍の2~3%を占めており、50歳以降の中高年者に多く認められ、まれに30歳以下の若年者にも発生することがあります。男女比は2~3:1、男性に多く認められます。発生原因ははっきりしていないところも多いですが、腎がんの危険因子としては、肥満・喫煙・高血圧などがあります。他にも遺伝性疾患であるフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病やバート・ホッグ・デュベ(BHD)症候群などは、高率に腎がんを発症します。また透析患者さんでは透析ではない人に比べて腎がんの発症率が数十倍高くなると言われています。
症状
かつては、腎がんの3大症状は血尿・側腹部痛・腹部腫瘤とされていました。しかし、現在においては、多くの患者さんは検診のエコーで、無症状のうちに早期発見されます。70%を超える腎がんが、症状がない状態や他の病気の検索中に発見されています。
早期がんでは自覚症状はなく無症状です。転移すると肺・リンパ節・骨などに転移を起こしやすく、転移した場所によって様々な症状(発熱、痛み、咳、血痰など)が出ます。
検査
スクリーニング(がんを見つけるために広く安全に行われる検査)には腹部超音波検査(エコー)が用いられます。腎がんは他のがんと比較して腹部超音波検査で発見される頻度が高いがんです。健康診断で腹部超音波検査を受けた219,640例のうち723例(0.33%)に悪性腫瘍が発見され、192例(0.09%)が腎がんでした。さらに診断を確定するために、血液検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査、核医学検査(骨シンチグラフィ、PET-CTなど)等を必要に応じて施行します。特に3cm以下の小径腎腫瘍の描出に関しては、腹部超音波検査よりも造影CT検査が優れています。転移のチェックには骨シンチやPET-CTも用いられます。
その結果により、病状のステージを決めます。ステージにより治療法を検討いたします。
腎がんの病期ステージは、大きさ(4cm以下、4〜7cm以下、7〜10cm以下、10cmを超えるもの)と浸潤度(周囲臓器への進展)、転移の有無により決定されます。
一般的に手術で治すことが期待できる患者さんには、手術の前に生検(エコーやCTで確認しながら針で刺して生体組織を採取して顕微鏡で調べる検査)などで病理学的に確定診断することはありません。しかし検査上、診断が難しい場合、手術が困難あるいは手術適応でなく全身薬物治療を行う場合などに生検を行い、組織診断を確定します。
治療
手術療法
腎がんの治療法は進行度によって異なりますが、一般的にまず手術を行います。手術には腫瘍のみを取り出す腎部分切除術と、腎そのものを摘出する腎全摘除術があります。
ロボット支援腎部分切除術
腫瘍の大きさが7㎝以下で、画像上部分切除が可能と考えられる症例を適応としています。7㎝以上のもの、部分切除が好ましくない7cm以下の腎がんは通常、腎全摘除術を行います。
2016年にロボット支援下の腹腔鏡手術が認可され、腎部分切除術の多くはロボット支援腎部分切除術で行われるようになりました。当院でも導入し、適応がある患者さんに行っております。
腎部分切除術とは、腎動脈の血流を、鉗子を用いて一時的に遮断し、腫瘍を切除し、摘出する手術方法です。腎臓の多くを温存し、腎機能をなるべく保全することを目的とした手術です。その理由は、4cm以下の腎腫瘍は、部分切除しても、腎全摘除術をしても、腎がんの制御はほぼ同じと考えられており、さらに腎機能をなるべく保全したほうが、将来的な心筋梗塞、脳梗塞への危険の可能性を少なくできると考えられているためです。切除した腫瘍は、当院病理診断医と適切な診断、議論をし、次の治療、未来への治療へと生かすために保管します。日本泌尿器科学会および日本泌尿器内視鏡学会技術認定取得医でかつda Vinci XiのIntuitive Surgical, incによる認定を受けた医師が行います。
腹腔鏡下根治的腎摘除術
腎全摘除術を必要とする方は、まずは腹腔鏡下腎摘除術を考慮します。
腎がんの進展の程度や年齢、全身状態、などを考慮して開腹手術を選択する場合もあります。
腎部分切除術との違いは、腎動脈、腎静脈、尿管を遮断ではなく切断し、周囲の臓器、脂肪(場合により同側の副腎)と一塊にして摘出します。より周囲臓器をつけることで、進展している場合でも腎がんの制御が可能になります。開腹手術との違いは、傷の大きさ、術後の痛みに利点があります。ただし、患者さんの安全、手術の目的、安全を第一に治療方針を決定しています。
腹腔鏡下根治的腎摘除術の際には、日本泌尿器科学会および日本泌尿器内視鏡学会技術認定取得医の参加のもと手術を行います。
腫瘍減量手術、転移巣切除術
最初は、手術による利点がないと判断された患者さんでも、下記薬物治療の結果、手術を行える、手術による利点が生まれる場合、患者さんがある一定数おられます、その際には、他診療科(消化器外科、呼吸器外科、整形外科)のご協力のもと切除を検討し、積極的に切除術を行っています。
薬物療法
手術が不可能な方(腎がんを摘出することが利益とならない、転移を認める、手術だけでは治せない)に対して、全身薬物療法が行われます。腎がんでは抗がん剤の効果がないとされています。特別な場合を除いて抗がん剤は使用しません。近年の、薬物療法の進歩は目覚まく、新しい薬が治療に悩まれる腎がん患者さんの生命予後を改善してきました。当院では適切な薬剤を、適切なタイミングで、適切な患者さんに、適切な投与量で届けられるように、常に患者さんの状態に合わせて、個々に使用する薬剤の最良の選択を検討しています。
- 免疫療法
- かつては(2008年まで)、インターフェロン、インターロイキン等の免疫療法が長い間行われていましたが、奏功率は高くなく、最近ではほぼ使用されません。
- 分子標的薬
- チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)とエムトール阻害剤(mTOR阻害剤)があります。働きとして、がんは自分の周りに新しい血管を作ること(血管新生)で、栄養や酸素を取り込んで成長しています。分子標的薬はその血管新生を妨害することによって、がんへの栄養を阻止して、がんの増大を防ぐ薬です。主な副作用としては高血圧、下痢、倦怠感、手足症候群、腎障害などがあります。副作用が強い薬ですので、患者さんご自身による血圧の測定などの自己チェックが必要です。一緒に治療を行う意識を共有して、患者さんと私たちとで一緒に治療をしていきます。
- 免疫チェックポイント阻害剤
- ヒトは、がん細胞や体内に入ってきた細菌・ウィルスを、自らの免疫細胞(T細胞)が攻撃して排除しようとします。この働きを免疫機能といいます。がんには、自らが増大するために、その免疫機能を阻害して攻撃されないようにする特性があります。免疫チェックポイント阻害剤は、がんが免疫の働きを阻害しないようにすることで、自分の免疫細胞が、再度がんを攻撃してもらうように命令します。日本人により発見されたPD-1,PD-L1がその役割を担いノーベル医学賞をその社会的貢献より受賞されて注目をされました。
主な副作用としては、免疫機能の働きが暴走することによって、がん以外の自分の正常な細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患と同じようなことを起こすことがあります。早く気付くことが大切です。患者さんと私たちとで一緒に治療をしていきます。
最近では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の併用療法も行われています。がんや患者さんの状態に合わせて使い分けられています。
放射線療法
通常、腎がんは放射線治療による効果が低いため、がんを完治させる目的で行われることは少なく、合併症予防、症状の軽減や苦痛の緩和などを目的した治療のために行われることが多いです。ただし、骨転移病巣に対して、骨折予防、疼痛コントロール目的で行う場合があります。当院では、放射線治療医と連携を取ってすみやかに行っています。
- 凍結治療
- 腫瘍を凍らせる治療です。多くは手術ができない、麻酔がかけられない患者さんに行われます。当院では行っておりません。
参考文献
- 日本泌尿器科学会編 腎癌診療ガイドライン2017年版
- 日本泌尿器科学会編 腎癌診療ガイドライン 2019年アップデート
- 高橋茂樹 STEP内科(4)第3版 腎・呼吸器 海馬書房