診療案内膀胱がん

膀胱がん

膀胱がんとは

膀胱がんは、膀胱から発生する悪性腫瘍です。
膀胱とは、骨盤の中にある袋状の臓器で、尿をためる機能、排出させる機能をもちます。男性では恥骨と直腸の間、女性では恥骨と子宮、腟の間にあります。腎臓でつくられた尿は、尿路(腎盂、尿管を通って膀胱、尿道へ至る尿の通り路)を経由して体外へ排出されます。そのほとんどが尿路上皮という粘膜でおおわれており、この尿路上皮より発生するがんを尿路上皮がんと呼びます。発生した部位により、尿路上皮がんは膀胱がん、尿管がん、腎盂がん、尿道がんと分けられます。

危険因子としては喫煙・たばこが有名です。高齢者に多く、男性が膀胱がんになる割合は女性の約2~3倍といわれています。男性の喫煙者は非喫煙者と比較して膀胱がんになる割合が4倍高くなるという報告もあります。女性は、たばこに関連しない膀胱がんの発生が多いです。ナフチルアミン、ベンジジン、アミノビフェニルなどの化学物質を扱う職業、環境にいると発生率が高くなります。

症状

最初は、無症候性血尿(頻尿や排尿痛といった症状のない血尿)が多い症状です。
検診、健康診断、人間ドックにおいて尿潜血(顕微鏡的血尿)で受診をされて見つかる方もいます。健康診断で、尿潜血を指摘された際には、泌尿器科を一度は受診ください。
肉眼的血尿は目立つ症状のため、すぐに受診さえすれば、膀胱がんはわりと早期に発見されます。進行すると排尿に伴う痛み、トイレが近い(頻尿)、水腎症(腎臓から膀胱への尿の流れが悪くなる)に伴う腰痛、腎機能低下が発生します。
さらに進行し、転移を伴うと、転移した臓器での症状が出現します。転移が多い臓器は、肺、肝臓、リンパ節、骨です。

診断

膀胱は内から外に向かって粘膜・粘膜下層・筋層・周囲脂肪という構造になっています。粘膜下層までを表在性がん(非筋層浸潤性膀胱がん)、筋層まで及んでいるものは浸潤がん(筋層浸潤性膀胱がん)と区別します。大きく治療の方針が変わります。

膀胱がんは大きく組織学的に3つのタイプに分類されます。

表在性膀胱がん(非筋層浸潤性膀胱がん、Ta,T1のみ)

膀胱の内腔にカリフラワー状に発育しており、膀胱の壁(筋層)には浸潤していないタイプが多いです。再発を繰り返しやすいという特徴がありますが、適切な治療を受けると生命にかかわることはほとんどありません。しかし、再発を繰り返す患者さんの10%が、筋層浸潤性膀胱がんに移行し、生命に関わる場合が出てきます。表在性膀胱がんの段階でいかに制御するかが大切です。

浸潤性膀胱がん(筋層浸潤性膀胱がん、T2以上)

悪性度が高く、早期に膀胱の壁(筋層)まで浸潤するタイプです。生命にかかわる膀胱がんとして治療が必要です。リンパ節や他の臓器に転移を起こしやすく問題となります。早期に膀胱を全部摘出する必要性があります。

上皮内がん(CIS:carcinoma in situ、Tis)

特殊なタイプとして、上皮内がんがあります。見た目は、正常の膀胱と区別がつかない場合がありますが、見た目以上に、広く膀胱内にがんが広がっています。表在性膀胱がんのひとつですが、浸潤性膀胱がんへ移行しやすいものであり注意が必要です。膀胱内BCG注入療法を行う必要があります。

検査

スクリーニングとして、以下の検査があります。
腹部超音波検査(エコー検査)、尿細胞診(尿の中に悪性細胞を疑うものがあるか顕微鏡でみる検査)、膀胱鏡検査(膀胱鏡を使用して、膀胱内をカメラで直接観察します)
上記の検査で、膀胱がん、あるいはその疑いが強いと判断された場合には、確定診断として、組織採取、病理学的診断のために経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行います。これは入院のうえ、全身もしくは下半身麻酔下のもとで尿道から手術用の内視鏡を入れて腫瘍を切除する(削り取る)手術を行います。削り取ったがん細胞を顕微鏡で調べ、がんの悪性度と膀胱の壁への深さ(進達度:非筋層浸潤性膀胱がんか筋層浸潤性膀胱がんの区別)を診断します。この診断により、その後の治療、手術方法も生命にかかわる予後も大きく違います。
局所の広がりや転移の検索のために、手術前にCT検査やMRI検査、骨シンチグラフィなどを行います。また、すでに腎、尿管に腎盂がん、尿管がんが存在する場合もあり、同時にチェックをします。
その結果により、膀胱がんの病状のステージを決めます。病期ステージにより治療法を決定します。

治療

表在性膀胱がん(非筋層浸潤性膀胱がん、Ta,T1のみ)

浸潤度の低い表在性の膀胱がんの場合は、経尿道的膀胱腫瘍切除による診断かつ治療をかねた手術でがんを取りきることが可能です。手術は、尿道から膀胱に内視鏡を入れ膀胱内の腫瘍を切除します。膀胱内に再発することが多く、再発率を下げるため、手術後に膀胱内薬物注入療法を行うことがあります。がんのタイプ、悪性度、数、大きさ(3cmを超えるか)により抗がん剤もしくはBCG(弱毒化した結核菌)を注入する薬剤を議論し、決定します。非筋層浸潤性膀胱がんの中にも悪性度が高いものがあり、そのような場合には、非筋層浸潤性膀胱がんであっても膀胱全摘除術を行うこともあります。また、再発を早期に発見するために、手術後は定期的な膀胱鏡検査(2年は3か月ごと)と尿細胞診検査や尿検査を、外来にて定期的に、最後の手術後5年まで行います。

浸潤がん(筋層浸潤性膀胱がん、T2以上)

がんが膀胱の筋層にまで及んでいるものは進行がんとなります。リンパ管や微小な血管より全身に転移を起こす危険性が高くなるためです。生命にかかわらない膀胱がんにするために、追加の治療が必要になります。
抗がん剤投与、適切な手術を組み合わせた治療方針(集学的治療)が、患者さんのその後の未来を変えます。転移や周りの臓器への進行の程度でその後の治療方針がかわります、より詳しいCT検査、MRI検査などの画像検査で適切な病期ステージを決めます。当院では病理診断医、放射線医との議論、検討の結果で、①すぐに手術を行う(即時に膀胱全摘除術)②術前補助化学療法後に膀胱全摘除術を行う(手術前に化学療法を行った方が将来的な生存の確率が高くなる方)と治療方針を分けて決定しています。

ロボット支援下膀胱全摘除術(RARC)について

他に転移がない筋層浸潤性膀胱がん、術前化学療法でがんが縮小した筋層浸潤性膀胱がんの方には、膀胱全摘除術を行います。男性では前立腺や精嚢を同時に摘出します。女性は卵巣、子宮と膣の一部を同時に摘出する場合があります。また、膀胱がんの広がりにより尿道も一緒に摘出する場合があります。膀胱全摘術の方法としては、開腹術、腹腔鏡下腎摘除術があります。2018年にロボット支援下の腹腔鏡手術が保険認可されました。当院では、ほぼロボット支援下膀胱全摘除術(RARC)で行っています。従来の手術に加えて、出血量の低減、術後の回復が早いと考えられています。また、リンパ節郭清を広範囲におこなうとその後の生命予後が改善することが証明されております。当院でも、リンパ節を広範囲に取ることを目指して手術を行っています。
さらに膀胱を摘出した後は、尿を体外へ出すための通り道を作る必要があります(尿路変更)。当院では、年齢、麻酔のリスクを検討しながらロボット支援下に尿路変更を行っています。(ICUD) 回腸(小腸の一部)を利用して回腸導管造設術、新膀胱造設術、尿管皮膚ろう造設術をロボット支援下に行っています。(ICUD)

薬物療法

薬物療法は、手術だけでは治せない方(術前、術後補助化学療法)、手術が不可能な方(延命治療)、また手術と併用することで治療効果を期待できる方(術前補助化学療法)に目的を分けて、適切な患者さんに、適切なタイミングで、適切な薬剤を、適切な投与量で届けることを目標として治療方針を決定しています。

化学療法(抗がん剤)

薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がんの増殖を阻止する治療法です。化学療法は注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。化学療法の薬剤は、対象となるがんの種類と病期に応じて異なります。当院では、dd-MVAC療法、GC療法、GCBDCA療法を使い分けています。

免疫チェックポイント阻害剤

腎がんと同様に自分の免疫細胞にかかるブロック(抑制)を外し、がん細胞への攻撃を刺激する免疫チェックポイント阻害剤が、膀胱がんに対しても使用可能となりました。ヒトは、がん細胞や体内に入ってきた細菌・ウィルスを攻撃して排除しようとします。この働きを免疫機能といいます。がんには免疫機能を阻害して攻撃されないようにするものがあります。この薬剤は、がんが免疫の働きを阻害しないようにすることで、自分の免疫力を復活させてがんを倒してもらいます。主な副作用としては、免疫機能の働きが暴走することによって、がん以外の自分の正常な細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患と同じようなことを起こすことがあります。早く気付けるように一緒に治療をしていきましょう。
当院では、キイトルーダ、バベンチオ療法を使用しています。(2021年5月現在)

薬物療法に関しては、使用できる病期や状態などにより適切な判断が必要になります。詳細につきましては当院の担当医にご相談ください。

放射線療法

通常、放射線治療はがんを完治させる目的で行われることはありません。合併症予防、症状の軽減(血尿の管理)や苦痛の緩和などを目的した治療のために行われることが多いです。また骨転移病巣に対して、疼痛コントロール目的で行う場合があります。

参考文献

  1. 日本泌尿器科編 膀胱癌診療ガイドライン2019年版
  2. 日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編 泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約【第1版】